2009年3月1日(日)三浦マラソン〜遠いフィニッシュライン


※今回のコースはこちら。

好ましくない状況を挙げれば尽きることがないほどの悪条件が重なっていた。折からの小雨は雨脚を強めており、気温は一向に上がらず、海からは強風が吹き荒び体温を容赦なく奪っていく中、一方しゅんすけはこの日までほとんど練習しておらず、加えて前日より体調が優れず、激烈なアップダウンの連続を誇るコースを踏破できる可能性は高いとは言い難い、まさにショウウインドウに並んでるかのような悪状況の連続であった。その他に不安要素はあって、そもそもさきこは先週のロングラン練習以降に体調を思いっきり崩し、会社を3日も休んだ病み上がりホヤホヤ状態。体調が万全でない状況に鑑み、この日は練習と割り切り、しゅんすけの伴走を決めていた。

しかし、この悪条件てんこ盛りに、最初にNGを出したのはさきこである。
さすがに体調不良を来週にまで持ち越すのはマズい状況の中、こんな天候の下で薄着で走ったりしたら絶対ぶり返すに決まってる。賢明な判断である。
しかし、しゅんすけは以前からこの日を結構楽しみにしていた。久し振りのハーフマラソンということと、前日の晩からなぜか先日の取材がやたら想起されて、ここで走らないと次の取材の時困るんじゃないかという根拠のない思いがあって、この前の取材で着たランニングウェアで走らないといけないという意味不明な使命感があった。だから、さきこが出走を辞退すると決めた時も、気持ちはそれほど揺らがず、「フィニッシュラインで待っていてくれ」などとカッコつけちゃったりしたのである。
この思いが今日最大の後悔に繋がるわけであるが・・・。


※やる気満々のしゅんすけ。果たして結果は?

さて、悪条件が重なる中、ついにレースはスタートである。
しとしと雨が降る中、濡れたアスファルトを蹴って走っていく。雨に濡れた身体を容赦ない風が体温を奪っていく。
でも、なかなか楽しかった。去年はこのレースの10キロ部門に出たのだけど、天気も良くて、勾配に若干苦しめられたものの楽しく走れた記憶があった。今回はその約2倍を走ればいいわけで、楽しくなってしまえばあっという間に過ぎていくものと思っていた。実際序盤のフラットな道は息づかいも軽快にトントンと走っていった。この後にアップダウンが来るというのは分かっていても、何とかいけそうな気配であった。しかしそんな気配を越える三浦マラソンのアップダウンの多さはまさに常軌を逸していたのだ。


※スタートの横断幕をくぐる。


※3キロ地点。まだ快調。

国道を右に折れて民家に挟まれた細い道を進んでいくと、見えてきたのは墓地である。そして、かなりの急傾斜。このレースの最初の難関は墓地を抜ける、まさに墓場で運動会的急勾配のルートなのである。いや、分かっていたけど序盤からコレはキツかった。まだ体力は消耗しておらず、息も乱れていないところに、いきなりこの坂道が登場して一気に疲労を蓄積するハメになった。さきこから聞いてはいたけど、自分の足で実際に上ってみるとそのキツさ度合いが身にしみるわ。それでも、勾配を越えてフラットなコースになれば、先ほどのペースを回復することはできて、まだ体力的には充分、平らな道はそれなりのペース、今回は序盤からキロ当たり6分程度を維持できていたのである。
しかし、この急勾配を上りきった後にふと振り向くと、この坂道の下で、運営車を伴った最後尾がまさに坂道を上ろうとしていたのである。


※この過酷さ、いろんな意味で墓場に近い。


※下ったと思ったらまた上りである。

この段階で5キロ弱辺りだと思うけど、しゅんすけの身体はほとんど温かくなっていなかった。手がかじかんで痛いほどである。それでも不思議とペースは維持できていた。いくつかの小さな勾配を越えて、城ヶ島へ向かう。曇った向こうの空と地平線の間に海らしきものが見えた時にはちょっと嬉しかったな。ついに城ヶ島へ来たのだ。
城ヶ島を越える城ヶ島大橋は強風にさらされていた。少し温まってきた身体が再び冷えていく。城ヶ島に入ってほどなくの折り返し地点を回ったランニング仲間がしゅんすけとすれ違う。女性とは言えランニングのイベントでもそれなりの記録を出す人たちである。その差がこの程度というのはしゅんすけが順調に走ってきているという証拠であろう。
城ヶ島大橋を越えた辺りで、急にお腹が減ってきた。しゅんすけは10キロを越える辺りになると空腹になるようである。ちゃんと用意してきた補給食を摂ってたら脚に入る力が増すのだから面白いものである。復路の城ヶ島大橋を渡っている時、最後尾とすれ違った。う〜ん、先ほどちらっと見た最後尾とはそれほど離れてないんだな。


※晴れていたらスゴくキレイだったろう景色。ランナーが長く続いている。


※城ヶ島大橋を越える。


※城ヶ島に入った。


※城ヶ島大橋をくぐった先に折り返し地点がある。

ここからはスタート地点に向けて帰る道のりである。
帰りの道のりは往路とはコースが違うんだけど、この復路を走ってみて往路が異常に快調ペースだった理由が分かった。追い風だったのである。復路になって強烈な向かい風を感じて始めて分かった。いや、これはキツいわー。復路になってコースの過酷さがさらに増したような感じで、しゅんすけのペースは狂いっぱなしである。もともとスタート地点でストップウォッチをスタートさせてなかったため、後で気づいて3分後辺りから測っているわけだけど、その3分を考慮してもかなり遅れ気味であることが分かっていた。でも、周りにはまだたくさんのランナーがいるので、問題ないと思っていた。
復路の長い道のりは筆舌に尽くしがたいものがあるが、途中の坂道でふわっと気持ち良くなった瞬間があった。16キロ付近だったろうか。この瞬間だけは走るのを止められないと思った。若干の下り坂ではあったけど、あのふわっとした感覚は何だったんだろう。その瞬間を過ぎると、苦しさがよみがえってきて足取りが重くなった。まだ5キロ以上ある。


※この風力発電、去年の三浦サイクリングでも見たな。


※入り組んだ湾に向かって下っていく。そしてまた上る。

長い下り坂の向こうに、スタート地点付近にあるホテルの影が見えた。あそこにフィニッシュラインが待っている。きっとさきこが寒風に凍えながらしゅんすけを待ってくれているハズである。それにしても、目で見ると遠いなー、ホントに4キロ程度の距離なんだろうか。
この4キロってのが、異常に長い距離に感じられた。距離表示のプラカードは着実にフィニッシュに向けてカウントダウンのように数が減っていくんだけど、その数字がいちいち信じられない。ここまで距離に苦しめられたのはランニングを始めて以降経験のないことだった。大抵は残り数キロを着実に踏んでいく感じでクリアしてきた。
あと1キロを越えた辺りで、交通規制が解除された。
この意味をしゅんすけはまだ分かっていなかった。フィニッシュラインはしゅんすけを待っていると思っていた。既にマラソン大会のコースではなく、一般の車道の様相が戻り、しゅんすけは走行する自動車の障害物でしかなくなっていた。歓喜の中でフィニッシュを踏もうと思っていたのに、スタート時にはかなりの賑わいだった沿道にはほとんど人がいない。ここで初めて自覚した。レースは終了したんだ、しゅんすけは制限時間に間に合わなかったんだ、と。スタート地点に設置されていた即席の櫓は既に撤去が始まっており、スタート時にくぐった「START」の横断幕、きっと裏面には「FINISH」って書いてあるんだろうけど、これも既に折りたたまれていた。
つまり制限時間に間に合わなかったのだ。タイムオーバーである。


※遠くにホテルが見えた。あそこがフィニッシュである。


※残り1キロだが、もはや体力が残っていなかった。

初めて制限時間に間に合わなかった。それも、ちょっと間に合わないという程度ではなく、大きく間に合ってなかったみたいである。これはかなりショック。
しゅんすけの周りにはたくさんのランナーがいたし、実際しゅんすけの後ろにも相当のランナーがいたハズである。彼らはしゅんすけと一緒ですべからく「記録なし」となったわけである。
しゅんすけはずっとこのフィニッシュラインを目指して走ってきたわけで、ようやく到達した場所にそれがないのであった。
雨脚は既に弱まっていて小降りの雨が路面を浸していた。しゅんすけはそっと左手首に手をやり、かじかんだ手でストップウォッチのボタンを押した。しゅんすけはこの長い長いレースを自分の手で終わりにしないといけないのだった。

時計のタイムは2時間21分。
スタート時の遅れが3分程度で、レース自体のスタートより3分くらい遅れてスタートを踏んだので合計7分ほど制限時間に間に合わなかった計算になる。この結果はすべて自分に帰結する。しょうがないことだとは言え物凄く悔しくて、涙が出そうになって、そういやしゅんすけは今までいろいろ涙を流したけど悔しくて涙が出たことって一回もなかったなーと思うにつけ、そんな冷静な自分に冷めてしまって涙は出なかったけど、ゴール直前にしゅんすけを心配して待っててくれたさきこに見られなくて良かった。
この結果を招いたのはしゅんすけ自身である。悪条件とは言えペースを上げられなかったのは自分である。ランニングってその結果はすべて自分に帰結するというけど、それがすぅっと納得できた。このタイムは自分の能力が数値化されたもので、これにどんな要素も足されないし引かれない。

会場にはまだたくさんのランナーがいた。冷たい小雨の中、イベントや出店はまだ活況だった。去年は燦々と降り注ぐ陽光の下、あっという間に売り切れになった三崎名物「トロまん」もまだまだ在庫がせいろの中で湯気を噴き出していた。売れ残りのトロまんは、まるでフィニッシュを目指して走り続けたしゅんすけの思いが彷徨っている感じにも似ていた。

さて、そんなわけで、三浦マラソンのフィニッシュライン付近にあるゴールできなかった無念のしゅんすけの思いを晴らすべく、来年もこのイベントには出場しないといけなくなった。別に完走できなくなくても出場はしたんだろうけど、今から思いが高まっていくようである。今年のような不甲斐ない結果にならないために、ちゃんと練習をしないといけないと決意を新たにするのであった。