今年も富士登山である。
もう夏の恒例行事の感があるなー。
今回は初めての富士宮口からの挑戦である。
ガイドブックでは中・上級者向けのコースらしく、去年の吉田口でさえ
ヘロヘロで山頂に辿り着いたしゅんすけにはちょっと不安なコースなのでした。
また、今年はまりこさんが同行、去年くらいに購入した登山靴がお目見えすることになりました。

1.プロローグ
富士登山は登山口から足を踏み出した瞬間に始まるのではなく、
日々の生活からその準備が始まるのである。
去年2月から始めたスポーツジムでの体力作りでも、
富士宮口からの登山を想定して
走り込みを多くしたり、バーベルのウエイトを上げたりしました。
ただ、体力があってもどうにもならないのが高山病。
去年はこれに相当苦しめられた。
ある情報によると、高山病は血中の酸素濃度が低下することで発生するらしい。
酸素濃度が高いか低いかは、血中の赤血球が運搬できる酸素量によるそうで、
当然個人差があるわけなんだけど(さきこは過去2回とも高山病知らず)
要はこの赤血球の活動を促進すればいいわけで、
そのためには鉄分を多く含むヘモグロビンを増やす必要があるわけで、
つまり鉄分を補給できるサプリメントやホウレンソウを多く摂取すればいいのだそうな。
そんなアタマでっかちな理屈で高山病にならないで済むのかどうか疑わしかったけど、
せっかくの富士山からのキレイな景色を高山病による頭痛や疲労や吐き気で
見逃してしまうのは損なので、自らのお小遣いで初めて鉄サプリメントを購入し、
飲んでみることにしたのでした。
体力作りと鉄分摂取、これが今回の富士登山に好影響を与えるかどうか・・・。

ちなみに、しゅんすけが会社で年休を取得することを同僚に報告したところ、
しゅんすけが年休を取得するその前日からある同僚の女性も年休を取得するそうで、
奇しくも富士登山なんだそうな。
いや、奇遇だね。
彼女は吉田口からツアーで山頂を目指すのだそうで、丁度彼女が下山する時に
しゅんすけが富士宮口から登り始める形になる。
意外にも富士山頂を目指す仲間は、間近にいるものである。
(一昨年の時もそうだったしね)

2.初日〜五合目まで。
富士宮口には、新宿や横浜から富士登山ツアーの直通バスが運行されていないので
登山客は自家用車か御殿場駅から出ているバスで、五合目まで行かなければならない。
幸い、さきこの実家のクルマが借りられたので、高額なレンタカーを手配せずに済んだ。
感謝。
22日金曜日、朝6時半。
予定より少々遅れて自宅を出発。
途中でまりこさんを拾って、東名高速で一路、御殿場ICを目指す。
天気は薄曇とは言え、柔らかい日差しが差す天気。
地上の気温も30℃を超え、この天気のまま頂上まで行ければ、きっといい景色が見れるだろうな。
金曜日の朝の東名高速は、ガラガラで渋滞に遭うこともなく、
すんなりと御殿場ICを・・・通り過ぎる。おいおい、あまりにも順調なので、
裾野ICまで行っちゃったよ。
御殿場ICから裾野ICの間の進行方向右側に見える富士山の稜線の美しさを
見てみたいと思ってたら、つい行き過ぎてしまいました。
IC出口の係員に事情を話して、Uターンさせてもらい、上り車線で御殿場ICへ。
う〜ん、なかなかバタバタした初日である。

しゅんすけは、御殿場ICから富士宮口までの車窓の風景には、ちょっとした思い入れがある。
過去クルマで何回かドライブしたことのあるこの道路には、「国立中央青年の家」という研修施設があり、
前の会社の新入社員時と翌年の人事担当者として訪れたことがあった。
特に人事担当者として宿泊した時には、
小雪の舞う夜に施設の隣にある自衛隊宿営地の演習場で夜間訓練の装甲車や戦車なんかが
大砲やら機関銃やらをぶっ放す音が聞こえ、ドキドキした経験があった。
(自衛隊の活動なんか、小市民であるしゅんすけにはほとんど関係ない世界なわけで、
その一端に触れると、いやホントに軍隊だわーと思うものです)
※たまにすれ違う自衛隊やその宿営地の隣にある米軍基地関係のトラックの荷台には
幌に隠れて満載の迷彩服の男共が見えたりして、違いすぎるその世界に
平和にドライブを楽しむしゅんすけが逆に奇異に見えたりするのでした。

さて、森林地帯を縫うように長い坂道が続き、途中木立の間から戦車専用の
舗装されてない道が垣間見れたり、坂道を汗だくになって駆け登る若者(間違いなく自衛隊関係者)
を追い抜きながら、9時30分、クルマは富士山五合目、富士宮口に到着したのでした。
薄曇の真っ只中に入ってしまったかのようで、辺りには淡いガスがかかり、
ちょっと涼しい空気が吹き抜けていく五合目の駐車場にクルマを駐車。
登山シーズン中はかなり混雑し、駐車場に停められないクルマが手前の車道にまで延々と続いているという
某富士登山関係のサイトでの報告もあり、早めに着きたいとは思ってたけど、
意外なほど早く着いてしまいました。
前日またはこの日の早朝から登山を始めた人たちのクルマが駐車場を占拠していたとは言え、
割と登山口に近いスペースに駐車することができました。
ま、夏とは言え、週末前だったからね。

出発を13時に設定して、ちょっと仮眠。
さきこもしゅんすけも、前日は残業しちゃって、夜更かしして準備してたもんだから
ちょっと寝不足だったのでした。
富士山を寝不足で登るのは、危険だからね。

13時。
登山スタイルに着替えたしゅんすけとさきことまりこさんは、
富士山制覇のため、まずは今日の宿、八合目を目指して、最初の一歩を踏み出したのでした。

※さあ、出発!の図。

3.五合目〜六合目
五合目から六合目までは、去年の吉田口と同様ハイキングコースになっているようで
比較的なだらかな傾斜の道を進む。
吉田口ではこの道がやたらと長く、間違いなく富士登山のために来ているのではない軽装のカップルなんかもいて
少々気が抜けるんだけど、この富士宮口では、そういう人はあまりいなかったな。
ハイキングコースとは言え、多少のキツい登りもあったりするからなのかもしれないけどね。

感覚的にはあっという間という感じで、六合目の山小屋に到着しました。
気合漲る一同は、小休憩を挟んだ後、登山口へ続く山小屋裏手へ向かう。
山小屋の裏手の細い路地から姿を現したのは、
それまでの平穏なハイキングコースからは予想できないほどの
過酷な登山道が霧に霞みつつも聳え立つ光景なのでした。
しゅんすけの燃え盛るモラールも気圧されそうでした。
これからの苦悶の道を案じさせる風景に圧倒されるしゅんすけたちを
山小屋の店主は影でほくそ笑んでいるのだろうか。
なにくそ、六合目程度で引き返せるか!

※まだまだ余裕!


※山小屋の裏手に聳え立つ登山道。こ、これを登るのか?!

4.七合目、忍び寄る異変
高山病の兆候のひとつに、赤血球の不活性に起因して、肌の赤みがなくなっていく症状がある。
過去2回とも高山病に悩まされたしゅんすけは、酷い時には顔面蒼白、いや緑に変色するほどだったんだけど
幸い六合目を越え、ごつごつした溶岩石に足をかけてよじ登っていくしゅんすけには
その過酷さの割には、この高山病の兆候は現れていませんでした。
聳え立つような急な登山道は体力的には結構キツいんだけど、
だらだらと長く砂に足を取られながら歩数の割に進まない吉田口に比べたら、
着実に一歩一歩進める分、気持ち的には楽でした。
出発から2時間くらいかけて、やっと新七合目に到着しました。
う〜ん、ちょっと時間かかっちゃったかな。
眼下の風景も目指す頂上も霧に隠れちゃって、測ったように等間隔に並ぶ高山植物が
富士山の巨大さを表していました。
期待していた雲海の壮大さが全く見れず、まりこさんは意気消沈・・・って、
ちょっと気分悪そうなので、少し休憩することにしました。
初めての富士登山で、この登山道は、しゅんすけ以上にキツいんだろうね。

水分を補給して、出発。
時折、雲の隙間から目の前に登山道が現れる。
登山スタイルに身を包んだ登山客がはるか上方を行軍し、次の山小屋が点のように見えました。
う〜ん、次はあそこまで行くのか・・・。
チョコレートを口に放り込んで、気合充填、登山道をがしがし登り始めました。
遥か上方に見えたこの山小屋。
近づくに連れて、そのディティールが判然とするに連れ、看板の文字までもが見えるようになる。
「あの看板、『七』って書いてないか?」
次第に近づく山小屋の看板には、「元祖・七合目」の文字。
おいおい、七合目は通り過ぎただろ・・・って、さっき休憩したのは「新・七合目」。
疲労が見え始めた中、こんな笑えない冗談のようなことが富士山ではよくある。
しゅんすけも、吉田口では泣かされた。
実際笑えない状況だったのが、まりこさん。
さっきの「新・七合目」を越えた後、目前の山小屋を八合目と信じ、
疲弊した身体に鞭打ってきただけに、そのショックは新たな疲労となってひたひたと迫ってきたのでした。
16時10分、「元祖」七合目に到着。
この後に「旧」とか「続」とか「スーパー」とか冠した新たな七合目がないことを祈るばかり。


5.八合目・ゴージャス山小屋
渾身の最後の一歩を踏みしめて、17時20分、ついに八合目・池田館に到着。
少し霧が晴れてきた。
太陽は既に富士山の稜線に隠れてしまい、薄くかかった靄に影富士が写っていました。
予定よりもちょっと時間がかかっちゃったかな。
16時くらいには到着できると思ってたからね。
この八合目・池田館は、収容人員が比較的多く、富士宮口唯一の救護所が隣接しているので、
特に、疲労と頭痛に悩むまりこさんにとって、最悪ここで様子を見るには安心できる場所でした。
さて、一方しゅんすけの調子は、疲労以外はオールグリーン。
鉄サプリメント&ホウレンソウ摂取は、確実に効果を発揮していた。
肺胞の機能不全を引き起こす喫煙のせいで息が切れていたけど、
顔色の変化や頭痛は全く感じませんでした。
う〜ん、やはり高山病には鉄分摂取は欠かせないものなんだね。

山小屋で受付を済ませ、仮眠所へ案内される。
過去の吉田口の山小屋では、シーズン中ということもあり、
二段ベッド(というかあれは物置と言うべきか)に隙間なく横にさせられ、
ほとんど強制収容所のような状況に耐え忍んだものだったけど、
案内された仮眠所では、予想しない光景がありました。
刷りガラスから柔らかい光の差し込む明るく広い空間、談笑する家族連れや学生仲間らしきグループ。
二段式物置の様相は吉田口の山小屋と変わらないにしても、全く感じの異なる雰囲気なのでした。
「じゃ、あおきさんご一行は、二段目のこの柱からこの柱までね。
布団は敷いてあるけど、飲食する時は布団を巻くってね。
ご来光を見るためには、午前2時半出発なので、呼びに来ますから」と言って
3メートルはあろうかという幅のスペースを指差して、山小屋の兄ちゃんは去っていった。
え?こんな広いスペース貰っちゃっていいの?
寝返り打てちゃう広大なスペース、仮眠所で飲食できるほどの自由さ、しかもモーニングコール付き。
いやあ、こんな厚遇に甘えちゃっていいんかなーと、吉田口の山小屋からはかけ離れた世界に
ついつい謙遜しちゃうしゅんすけなのでした。
しかも、ゴージャスなのは、仮眠所だけではなかった。
最近富士山の汚染が問題化していることもあり、整備が急がれているエコ・トイレが
ここには常備されていた。キレイで臭わないトイレ。
こんなセレブ扱いされちゃっていいんかなー。

夕食はやはり定番のレトルトカレー。
でも、美味しいんだよね、疲れてるし。
まりこさんの不調のため、全部食べられず、しゅんすけが頂いちゃいました。
最悪、まりこさんはここで休んで、しゅんすけとさきこだけで山頂を目指さにゃいけないだろうな。
当初からそういう場合のことは覚悟してたけど、ホントにそういう事態になるのは残念。
陽も沈んだことだし、まりこさんの回復を期待して、このまま仮眠。
1時くらいには準備して出発したいところ。


6.雨中登山
1時30分、起床。
ぬくぬくのあまりの寝心地の良さに、このまま寝ていようかと思っちゃったけど、
周辺でガサゴソと起き出す人が多くなってきたので、九合目の混雑を恐れて出発の準備を始めました。
仮眠所を出て、外に出てみる。
強風はおさまっていて、星が出ていた。
満月が輝いていたので、満天の星ではなかったけど、霧に霞みながらも雲海が月明かりに照らされて、
とても幻想的な風景でした。
いや、こういう景色を見たかったんだよなー。
これだけ明るければ、この時間でも登山は楽だろうな。
さきこに声をかけて、準備を開始しました。
まりこさんも起床。
幸い体調は好転している様子。高山に留まって高山病が治るということはないらしいので
もしかして高山病ではなかったのかな。

※月明かりに照らされる幻想的な雲海の図。露光最大でこんな感じ。もっといいカメラ欲しーなー。

山頂は雲が覆っていた。
昨日の夕方から笠雲がかかってたんだけど、もしかしたら上の方では雨が降ってるかもしれないな。
山小屋からお弁当を受け取って、2時、いざ出発。

あいかわらずの岩場の道をがしがし登り、2時40分九合目着。
かなり寒くなってました。
空気の薄さがキツくなってきた。呼吸が荒くなる。
でも、去年の九合目に比べると、まだまだ平気な方。
長めの休憩で水分を補給して、出発しました。あともう一息。

※九合目、もう一息!

九合目を出て、しばらくすると濃い霧に雨が混じるようになってきた。
ヘッドランプの光が濃霧と白い息をぼんやり照らし、数メートル先も見えない状況。
山頂にかかる雲に入ったようだ。
衣服の水滴に身体が冷えてきたので、
去年購入してまだ使用していない上下のレインスーツを着込み、リュックカバーを装着。
無風と言えるほど風が吹いていなかったのが幸いだったけど
山頂を目指す人の列は登山道に渋滞となり、前を行く人の後ろで数歩行ってはしばらく待つを繰り返した。
富士宮口では、吉田口のように登山道の途中でご来光を見ることができないので、
日の出までに必ず山頂に到着しないといけない。
ま、考えれば、この天候が、あと1時間足らずで太陽が見れるほど回復するとも思えず、
ご来光はほぼ見られないだろうけどね。
そう考えた一部の登山者が早々と下山を始めていて、登山道と下山道が同じ富士の宮口では
こういう渋滞が起こるのだろう。

※九合五勺。雨が降ってきた。

ご来光は見れなくても、山頂には行きたい。
頭から被ったフードに雨粒が当たる音を聞きながら、3人はなおも山頂目指して遅い歩みを続けたのでした。
3時30分、九合五勺を通過し、辺りが白んできてヘッドランプを消した頃、
前方に白い鳥居が霧の中から姿を現しました。
大きな鳥居と山小屋。
4時30分、ついに富士宮口の山頂に到着したのでした。

※ちょっとボヤけたけど、山頂を告げる鳥居。ものすごいガスだ。

7.山頂にて
山頂は強い風が吹いていました。
雲が山小屋を越えた火口の向こうからすごいスピードで流れていく。
丁度、しゅんすけが登ってきた登山道は、風の道の陰になるような位置だったので、
ほとんど風が吹いてなかったんだね。
強烈な風と雨が吹きつけ、喜ぶしゅんすけたちから容赦なく体温を奪っていく。
吉田口と違い、一軒しかない山小屋には、風雨を避けて人がごった返していた。
小さなスペースを見つけて、しゅんすけたちも小休憩。
あまり美味しくないカップ麺を食べ、とにかく身体を温めないと。

※暖かいお汁粉でほっと一息。ごった返す山頂の山小屋。


※山頂の鳥居にて。奥の建物は、頂上浅間大社奥宮。

さて、どうしたものか。
当初は、ここから3,776メートルの剣が峰を目指す予定だった。
でも、この風で剣が峰に続く急坂・馬の背を登るのはちょっと危険。
バランスを崩せば、火口か大沢崩れに転落してしまう。
今年になって既に3人の事故死が発生しているという富士山だけに、こういう天候の時は慎重にならないと。
まりこさんは初めての山頂。だから、3人の中では誰よりも剣が峰に立ってみたかったんだと思う。
そこで少し山小屋に留まって、天候の回復を待つことにしたけど、なかなか回復しない。
山小屋内の椅子に座って、既に明るくなってきた屋外を見ていると
目の前の霧の中を雲がすごいスピードで駆け抜けていく。
去年まで沼津で富士山の雲の形を毎日見てきたしゅんすけは、
湿った空気が地上から強烈に斜面を駆け登り、絶え間なく雨雲を供給している様子を何度となく見てきた。
その時の富士山頂の状況が、今のこの状況なのだとしたら、
太陽が昇って気温が上昇してもきっと回復しないだろう。
富士山で無理は禁物である。強行して無事お鉢巡りをしてきても、体力がより消耗して
下山をより過酷にするだろうし。
残念ながら、剣が峰は断念することにし、6時30分、下山を開始したのでした。

8.下山
富士宮口山頂を後にして、来た道を下山する。
この頃には山頂を目指して登ってくる人が列になっているという状況は解消していた。
見下ろすと、霧の隙間に山小屋や登山客が小さくぼんやり見えました。
吉田口のように下山道が砂走りになっていないので、リズミカルに駆け下りるという感じではなかったけど、
岩道に足をみつけて下っていくのは、単調な作業ではないので、飽きることなく下山することができました。
(砂走りは楽しいんだけど、単調で八合目辺りまで下ってくると飽きてくるんだよね)
途中、高山には珍しい名も知らぬ鳥に遭遇したり、雪を見たりしました。
8月頃には消えてなくなってしまう雪が、これほど残っていたのは意外だった。

※ハトよりも一回り小さい鳥。なぜか逃げずに、崖を滑って降りていく。


※下を見下ろす。左側に見えるのが、残雪。


※残雪のアップ。迫力に感動。

下山中、時折日差しが差すものの、薄い陽光にそれほど暑さを感じなかったのは幸いだった。
これで晴天だったら、南側に位置する富士宮登山道は、強烈な日射にさらされるわけで、
それが当初からちょっと心配だったんだけど、これは幸運だったのかな。
(去年は下山中の猛暑にどろどろに疲弊したからね)
振り返ると、山頂は依然雲の中でした。

六合目の山小屋が見えた。
前日、この山小屋の裏手の細い路地から聳え立つ登山道を見上げたのが、遥か昔のことのようでした。
路地を抜けて、六合目の山小屋へ。
ここで最後の休憩にヤキソバなぞ食べちゃって一息ついてから
さらにハイキングコースの緩やかな坂道を下り、カラマツの木立を抜けて、
11時40分、ついに五合目の登山道入り口に到着しました。
万歳三唱。
下山道はなかなか楽だったなー。
多分飽きが来なくて精神的に楽だったのと天候のおかげだろうな。


9.エピローグ
何よりも嬉しかったのは、高山病にならなかったことかな。
既に書いたとおり、2週間前から服用した鉄サプリメントと
意識的に摂取したホウレンソウが功を奏したよう。
去年は頭痛と疲労で意識朦朧で到達した山頂だったけど、
今回は登頂を喜び感動するだけの精神力は残っててくれました。
しゅんすけは大体8合目辺りで高山病の症状が出てくるので、
富士山に限らず、3,000メートル級の登山には有効な手段だろうな。

同じ登山道でも、去年経験した吉田口とはやっぱり違うね。
一般的には吉田口の方が楽と言われているけど、さきこ曰く「富士宮口の方が楽」だそうな。
確かに急な岩道をがしがし登るのは、体力的にはキツいけど、着実に登っている感覚が気持ち的には楽。
吉田口のようなズリズリ滑る小石の緩斜面を歩くのは、精神的には負担だった。
ただ、吉田口に比べて山頂との標高差が少なく、その分所要時間が短いと言われていた割に
去年の吉田口よりも時間がかかっている。
去年はベテランの登山ガイドが随行したからな。
効率的な小休止を適度に挟んだ登山行程と、疲労に任せて長々と休憩しちゃうシロウト的な
登山行程との差なんだろうな。

そうそう吉田口との違いと言えば、他の登山客との関わりが濃密なのも富士宮口の特徴だね。
登山道と下山道が分かれていないために、登っていると下りてくる人とすれ違うことが多い。
その時に挨拶を交わしたりする。
登山ではよくあることなんだけど、登山・下山が隔離された吉田口ではなかったこと。
(五〜六合目では、広いハイキングコースですれ違うことはあったけど、
なーんかお互いよそよそしいというか、山頂を極めた者とそうでない者のすれ違いが
溝を作ってる感じで、挨拶を交わすことはなかったな)
登山客と交流があったりするのも、登山客が少ない富士宮口ならではなのかな。
同じ山小屋に宿泊した人を山頂で見かけたり、下山道で一緒になったりすると、つい話しかけてしまう。
なぜかラクロスのラケットを携えて登っていたしゅんすけの出身大学のグループやら
(どうも山頂でラクロスをしたいらしい、ホントかよ)
山頂の山小屋で英語の堪能なドイツ人に「3度も来てるの?オー、クレージー」などと談笑したり、
訓練で来ているらしい自衛隊の一行の一人が高山病に苦しめられていたり(お気の毒に)。
肩に力の入らない良いコースで、しゅんすけは気に入りました。
(遮二無二富士山頂を目指すだけじゃつまんないもんね)

天気は、ホント残念だった。
ご来光の成功率は、だいたい6割だそうで、
3回目のしゅんすけたちがご来光を見れる確率はかなり高かったと思うんだけど、
やはり霊峰富士、数字では割り切れないということか。
この無念さが、富士山への再チャレンジへのエネルギーになっていくんだけどね。
ご来光を見れなかったのは残念だったけど、
八合目で見た月光に輝く雲海の様子は、感動的に幻想的だった。
3回目の登山で初めて見た光景でした。
荒々しい天候もあるけど、富士山は毎度違った風景を見せてくれるんだね。
こういうところが富士山の魅力なんだろうか。

独特な植生も特筆すべきか。
吉田口では、六合目以降、ほとんど植生が見られないんだけど、
富士宮口では八合目辺りまで、岩の隙間に緑が点在している。
雪解けを待って一斉に芽吹くだろうこの植物が、広大な斜面に遠くまで続いているのは
富士山の風景の壮大さに寄与している部分が大きいと思う。
また、写真には取れなかったけど、八合目のかなり高いトコまで、白い小さな花を見かけた。
花を咲かせるということは、花粉を運ぶ第三者に対してのアピールなわけで、
風とか雨水とかに依存しない交配手法が、こんな高度でも有効なことは意外だった。
ま、九合目辺りでも結構アブにたかられたからね。アブが花粉を運ぶ役割をしているのかな。

最後にまりこさん、である。
初めての富士登山が、あおき家の都合で富士宮口になってしまい、
(初心者は全部吉田口から登るべき的なマニュアルなんてないんだけど、さ)
頭痛に打ち克ち、山頂を極めた精神力には驚いた。
しゅんすけが言っても説得力ないけど、いや、よくやったと思う。
ご来光が見れなかったのは残念だったけど、これが富士山なのである。
せっかく揃えた登山グッズだから、またチャレンジして欲しいものである。

さて、しゅんすけとさきこは、吉田・富士宮と二つの登山道を制覇したので、
多分来年は富士山に登ることはないだろうな。
去年見た以上に更に神々しいご来光の光景を見てみたい気持ちもなくはないけど、
別の登山を経験してみたい気持ちも既に芽生えてもいることだし。
でも、一方でこういう想像もしている。
来年の夏、三つ目の登山道、須走口の登山道入り口に立つしゅんすけの姿。
ともあれ、しゅんすけとさきこの登山はまだまだ続きそうである。

五合目の登山道入り口に戻ってきたしゅんすけたちを
駐車場でさきこの実家から借りたクルマが待っていてくれました。
いわばベースキャンプへ帰ってきたという感じかな。
岩道を登り、雨の中一歩一歩踏みしめて到達した強風吹きすさぶ頂上からの帰還。
ポケットから取り出したクルマの鍵のボタンを押すと、電子音がしてクルマが開錠した。
雨の中、自分の足だけで山頂を踏破したしゅんすけが、
いきなり現実の文明社会に引き戻された瞬間なのでした。

ちゃらちゃん。

※一定以上の間隔で山肌を覆う植物。

※また、チャレンジだ!

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