長野県と富山県の県境、北アルプスの白馬に行ってきました。
以前からアルプス登山に興味を持っていたしゅんすけとさきこの初めての本格的なアルプス登山は、
白馬岳から始まるのでした。
ところが、登山直後に近年例を見ない大規模な崩落事故が発生したため、
急遽予定を変更して、結局最初に踏んだ山頂は、唐松岳になっちゃったんだけどね。
また、今回もあいにくの天候で、アルプスの雄大な景色には触れることができなかったけど、
充分楽しんでとても有意義な時間を過ごすことができたのでした。

1.プロローグ
日本アルプスに初挑戦。
言いだしっぺはさきこでした。
本屋でふと手にした登山関係の雑誌。
富士登山では見ることのできない風景の写真にココロが震えた。
今年の富士登山は、頂上で暴風雨に遭ってしまい、
去年のようなキレイな風景を見ることができなかったため、
なんとかその欲求不満を解消したい気持ちもあって、
富士登山から2週間後ではあったけど、白馬岳登山ツアーに申し込んでしまったのでした。

今回は、登山熟練のガイドさん(マイスター)が随行するツアーにしました。
富士登山を経験しただけでは、アルプス登山は心許ないからね。
しゅんすけは、この日のために過去富士登山では頑なに拒んでいたストックを購入。
(アルプスでは山小屋毎に焼印してくれるわけではないから、持ちにくくて重い金剛杖じゃない方がいいわけで)
初めての経験なので、準備する荷物のイメージがなかなかつかなかったけど
(気温の変化はどうなのか?疲労の度合いはどうなのか?山小屋の設備はどうなのか?)
ともかく富士登山と同様の荷物を詰め込んで、出発前夜の夜は更けていくのでした。

2.はーぁちじちょおうどの〜♪
出発当日、テレビの天気予報を見るさきこは、怒っていた。
どうも天候が良くない。
今年の富士登山も、山頂で散々な目に遭ったばかりだけに、今回の登山は好天を期待してたんだよね。
そんな期待を裏切るように、出発日以降の天候は芳しくなく、
ま、山の天気は変わりやすいからね、と言い聞かせるのも虚しい感じなのでした。

さて、正午のJR白馬集合のために、さきこが予約した列車は、7時30分発のあずさ3号。う〜ん惜しい!(何が?)
8月10日、水曜日の朝の新宿は、お盆休み直前とは言え、いつもの平日の慌しさ。
そんな中、大きなザックを背負い、スポーツバッグを持ったしゅんすけとさきこは、
白馬行きのプラットホームに向かったのでした。


それにしても、既に日本語の感のある「アルプス」は、もともとはスイスの山脈のことを言うわけだけど
今さらながら完全に日本の地名になっちゃったよね。
別に違和感があるわけじゃないけど、当地にあやかりたい日本人の気質を思うと、
なんか気恥ずかしさを感じる。いわば、「銀座」にあやかりたい「戸越銀座」の感覚と同じわけだから。
スイス人が日本にきて、「長野県南アルプス市」とか聞いたら、一体どこの国だと思うだろうな。

中央線を北上するあずさ3号は、4時間かけて白馬に到着。
どうやら午前中に雷を伴った豪雨があったよう。
河の水は濁ってました。
白馬に到着した頃には、既に雨は止んでいて、依然として雲が多い空だったけど、
時折日差しが差し込む天候になり、ちょっと期待感が増していました。
(この豪雨が、後の行程に重大な影響を及ぼすことになるのだが)
集合場所の白馬観光局には、参加者が続々と集合。総勢11名の団体ツアーとなりました。
今回のツアーでは、1日目に足慣らしを兼ねて八方尾根を八方池に向かい、折り返し戻ってきて、
麓の旅館に宿泊、翌朝猿倉から大雪渓を抜けて白馬岳を目指し、白馬山荘に宿泊して、
ご来光を見た後下山するという行程。
初めてのアルプス登山は、こんなもんかなー。


3.八方尾根ハイキング?
足慣らしだから、大して疲れるコースでもなかろう、ツアー参加者は失礼ながらしゅんすけやさきこよりも
年を重ねた方が中心だったので、恐らくハイキングコースに毛が生えた程度と思ってた。
八方からロープウェイやリフトを乗り継いで到達した登山道の出発地点・八方池山荘でも
ふらっとドライブに来た風のカップルや家族連れが多かったし。
ただ、風景は凄かった。
長野の田舎とは言え、中央本線の停車駅である白馬の近代的な街並みを見下ろしつつも、
目の前の風景は険しい岩肌を露出させた北アルプスの壮景が迫っていた。
う〜ん、このギャップは凄い。
クルマでちょっとドライブして、リフトに乗ったら、こんな景色が見れる日常生活って、ちょっとないよな。
(見下ろすと街並が見えちゃうのは、文明の匂いのしない荒削りな自然と向き合うことを
イメージしてたしゅんすけには、ちょっと興醒めだったかな)
さて、そんな和やかな雰囲気の中、ハイキング気分で八方池を目指して、整備されたコースを歩いていく。
途中、ガイドさんから高山植物の説明を受けるけど、花にそれほど興味のないしゅんすけは
聞きなれないカタカナ表記の植物名をいちいち覚える気にもなれず、
時折雲の隙間から見える白馬岳を始めとする白馬三山の稜線や、山肌に残る残雪の景色を堪能してました。

※リフトを乗り継いで、八方池山荘へ。


※見下ろすと、白馬の街並みが見える。

しばらく行くと、石を積み上げた突起状の人工物が見える。
ケルンと言って、冬登山の際に雪に埋もれた登山道から逸れないように目印となっているんだそうな。
冬登山で遭難して命を落とした人の家族が、二度と遭難が起こらないように願いを込めて
積み上げているんだそうな。
背の低い植物に覆われた尾根を伝って、歩いていく。
風が斜面を駆け登り吹き抜けていく度に、植物が波のようになびく。
生き生きした緑の尾根に白い一筋の山道が続いていく。
いや、いい風景だなー。
アニメ「もののけ姫」でちらっと見たような・・・。
2時間程度で初日の目的地・八方池に到着。
しゅんすけは結構汗かきました。ハイキングコースとしては、割とハードな方じゃないかな。
巨大な雲が目の前の山脈を隠してしまい、ここから見えるはずの白馬岳山頂は見ることができなかったけど、
吹き抜ける風が急速に汗を乾かして、ちょっと気持ち良かったな。

※八方池近くのハイキングコース。右手に八方池が見える。

そのままちょっと休憩して、引き返して、この日の行程は終了。
ロープウェイを降りると、観光局のワゴンが待ってて、宿泊施設へ向かいました。

※下山。今日はここまで。

旅館では、ツアー参加者と夕食を共にし、和やかに話しなぞしました。
相席したおじさんは平塚からクルマで白馬に来たそうな。
中央道突っ切ってきたのは凄い。富士登山程度で、予め一泊休憩を予定したしゅんすけの軟弱さを思う。
また、大学院生の男の子は、一人で参加。
彼女に登山の魅力を理解されないまま、学生時代最後の夏休みの挑戦だそうな。
関東からの参加者だけでなく、名古屋や神戸からの参加者もいて、その魅力の全国区振りを改めて認識したのでした。

夕食を終えると20時。翌朝出発の7時まで、かなり時間を持て余してしまいました。
もう感覚的には、フツウの旅行って感じで、風呂に入ってからビールなぞ飲み、
見るともなしにテレビなぞ見て、早々に就寝したのでした。
明日は晴れるかなー。

4.崩落
翌朝、窓の外を見るしゅんすけは、怒っていた。
低く垂れ込めた雲は、前日見せていた山の中腹すら隠してしまい、霧が窓の外の家々さえも霞ませていた。
おいおい、昨日よりも天気悪いじゃないの。
今日は、白馬岳山頂まで行かにゃイカンのに、この天気はどういうことよ!
レインウェアに身を包み、寒さに震えながら重い足を引きずるように登山道を登るしゅんすけの姿が
目に浮かぶようでした。
それでも、朝食を済ませ、登山スタイルに着替え、観光局のワゴンに乗り込む頃には、
霧が少しずつ取れてきて、太陽の白い姿が雲を通して見えるくらいにはなってました。
果たして、白馬岳登山は決行されたのです。

ワゴンは、白馬岳登山道入り口の猿倉へ到着。
高い木々に囲まれた山中の山荘で、何人もの登山客が準備をしていました。
(ガイドさんが登山計画書を提出してました)
しゅんすけの真新しいストックの長さを調節。
まずは、沢を横目に見ながら、最初の山荘・白馬尻荘を目指すのでした。

※猿倉の山荘前。

地図で見ると、砂防工事専用道路と記載されていて、まあ割りと広めの道だったな。
途中キレイな沢の流れを横切ったりして、それほどキツくない勾配を淡々と進み、
道路が途切れて細い山道となり、湿った土を踏みしめて登っていく。
少し息が切れてきた頃、白馬尻荘に到着しました。
ここで、少し休憩。持ってきたスポーツドリンクで喉を潤しました。
この辺でちょっと異変に気づく。
登山道を降りてきて、山荘を横切る人が多い。
何となく身ぎれいな様子から、白馬岳山荘から下山してきたというより、途中で引き返してきた感じ。
そういえば、ガイドさんの様子もおかしくて、山荘の人と話ししたり、電話したりしている。
話し声の一端から、大雪渓での崩落事故発生の報を聞く。
トイレ休憩のはずが、30分近く時間が経過しただろうか。
山荘ではもはや周知となった土砂崩れの報がツアー客の間でも囁き合われていた。
上空をヘリコプターが飛んでいき、山荘の屋根越しに見える大雪渓の斜面付近に滞空して、
どうも事故の状況を見ているよう。
かなり大きな事故になっているようだった。

※白馬尻山荘から大雪渓方面を望む。山に隠れた部分で崩落があり、ヘリコプターが状況確認に向かった。

ガイドさんが神妙な顔つきでツアー客に説明したところ、
登山道は土砂崩れとそれに誘発された雪渓の崩落で、通行止めになっているそうで、
このまま白馬岳登山は不可能であるとのことだった。
残念に思うしゅんすけを見透かしてるかのようにガイドさんはこうも言う。
「逆にラッキーだった。あと1時間早く出ていたら、確実に巻き込まれていた」
ま、確かにね。
しばしの休憩の後、しゅんすけたちは、登ってきた登山道を戻っていった。

下山する間にも、数機のヘリコプターが上空を通り過ぎた。
実際、どれだけの大きな崩落だったのかは、この時点では全く分からなかった。
大雪渓と言われる残雪の巨大な平原を、まだ見たことのないしゅんすけに、
それが崩れることを想像することは難しかった。
ところが猿倉に到着すると、マスコミ風の人が何人か来ていて、降りてきた人たちに
インタビューしているのを見るに、こりゃスゴいコトが起こったかもと思うのでした。
ガイドさんと顔見知りの人が汗だくになって降りてきた。
崩落のすぐ手前にいたんだそうで、話しを聞くに、かなりの規模らしく、
まだ救出されていない人も残っているとのこと。
(この人は、ガイドさんにそう告げた次の瞬間からマスコミの人に声をかけられていた)

さて、幸運にも崩落から免れたとは言え、ツアーはあと2日も残っている。
ガイドさんの薦めもあって、多少難易度は落ちるけど、近くの唐松岳に目標を変更することになったのでした。
上空にはまだヘリコプターが行き交っていた。

5.再び、八方へ。
大学院の男の子が携帯電話のニュースサイトから、既に大雪渓崩落がトップニュースになっていることを
教えてくれた。しゅんすけも携帯電話を取り出す。
メール受信。お袋さんからでした。
この日、白馬岳登山を知っていたのは、しゅんすけのお袋さんとさきこの両親。
さきこの携帯電話は怒涛の着信になっていた。しかも、その半分がしゅんすけのお袋さん(おいっ)。
昼のNHKニュースで知って、驚いたんだそうな。
とにかく電話して安心させておいた。このまま放っとくと、捜索願を出しかねないと思ってたら、
白馬村役場には既に連絡済みだそうな・・・おいおい。
事故の情報って、近くにいる人ほどコトの大きさが伝わらないものだよな。
ツアーの人たちもみな電話してました。

新しい目標・唐松岳は、前日登った八方尾根の先にあるんだそうで、
乗り込んだ観光局のワゴンは、前日来たロープウェイ乗り場に到着。
気持ちを入れ替えて、出発。
ロープウェイ、リフトを乗り継いで、再度八方池山荘へ到着、
第二ケルン、八方ケルン、第三ケルン、八方池を越えて、八方尾根を突き進むのでした。

※八方ケルンにて。普通のケルンはただ石を積み上げただけのモノなんだけど、これはちゃんと作ってあるね。

難易度が低いって言っても、かなりのキツいルートだった。
高山病を発症するほどの高度でもなかったけど、しゅんすけの息は早々に切れてきちゃいました。
富士登山のような単調さはないので、精神的には疲労しないとは言え、こんな体力で白馬岳なんか登れたんだろうか。
ちなみにさきこは今回も元気一杯。
膝に少々の不調があって、テーピングで保護しての登山だったけど、特に登りで痛みを感じることは
なかったようで、楽しそうでした。

※山肌の露出した登山道を唐松岳を目指す。


※雲の隙間から、白馬岳が見えました。右側の少し尖ってる山が白馬岳。


※汗だくのしゅんすけに水分を求めて蝶がとまった。しばらく、彼女(?)と一緒に歩いた。

 
※キツい登り。ちょっと必死です。

※ケルンをバックに。


※扇ノ雪渓をバックに。シャツを着替えて、少し元気になったか?


※でも、すぐこうなる・・・。


※丸山ケルンにて。険しい山並みと残雪の壮景。


※登山道はまだまだ続くのだ。

進むにつれて、霧が深くなってきました。ツアー客の行列から徐々に遅れ気味になってたので、ついに霧の中に
先頭の姿がかき消えてしまい、「あおきさーん、ココ、気をつけてくださいねー」と霧の中から聞こえたりする。
既に雲の中に入っているんだろうね。声ははっきり聞こえるのに、姿がまるで見えない。
実際、丸山ケルンを越えて、1時間後くらいから、急斜面を横切る細い山道になる。
足を滑らせると、マジで命はない。そういう場所が連続する。
こりゃ、富士山とは比べ物にならない危険度だわ。
しかも、この登山ルートは、アルプスの中でも難易度がそれほど高くないわけでしょ。
山岩に直接設置された鎖を伝って、細い足場をパスしたり、木造の渡り橋を通ったりして、
どのくらい歩いただろうか、山の陰から霧に霞む赤い小屋が突如姿を現しました。
唐松山荘に到着したのでした。
いや、疲れたわー。

※霧の中から突如現れた唐松山荘。まさに天空の山荘。

山荘に到着して、ザックを置くと、すぐガイドさんに連れられて、目の前に見える唐松岳山頂を目指す。
天気が良ければ、かなりの眺望らしいけど、やはり天気は回復してくれませんでした。
でも、初めてのアルプス登山、とりあえずひとつ山を征することができて満足なのでした。

※唐松岳山頂を目指す。
(よーく見ると稜線に人の影が小さく見える)


※ついに登頂を果たしたぜ!


※霧に霞む唐松山荘全景。

6.天空の山荘
唐松山荘は、ガイドさん曰く「良くもなく、悪くもない平均的な山荘」とのことなんだけど、
富士山の山小屋しか知らないしゅんすけとさきこには、意外なほど設備の整ったトコロでした。
いや、比較しちゃいけないんだな、これは。
地上3階建て、トイレもキレイで、電気設備も整っている。
宿泊スペースはかなり広く、多くの宿泊客が滞在でき、ベッドスペースこそ富士山の山小屋を彷彿とさせたが
それでも一人当たりの臥床スペースは広い。
食堂には椅子とテーブル。夕食には味噌汁とお茶がつき、海のもの山のものを使ったおかずと焚きたての白飯。
これにクラシック音楽の流れる喫茶スペースまでついていた日にゃ
しゅんすけの山荘についての既成概念など粉々に吹き飛んでしまった。
しかも、この山荘のレベルは決して高くない、いわゆる標準的なモノなわけで、
本来宿泊する予定だった日本一の収容人員を誇る白馬山荘は、一体どんな感じなんだか。

喫茶スペースでコーヒーなぞ飲んで、安らぎました。
街のコーヒー屋で飲むコーヒーとは比較できない美味しさなんだよね。
なんせこんな雲の上で、受け皿付きの白い陶器のコーヒーカップで、コーヒーを飲むなんて思ってなかったからね。
さきこが追加で頼んだホットココアもなかなかの美味。
疲れた身体に程よい甘さが染み渡る。こういう時のパイプタバコは最高にうまいのでした。
ちなみに、ここで働くウエイトレスの女の子は、夏休み中の学生だそうで、
そうか、そういう夏休みの過ごし方もあったかーと感心してたら、しゅんすけの大学の後輩だった。
この前の富士山と言い、今年は山で大学の後輩と会う機会が多い。
しゅんすけも、大学生時代にこういうトコでバイトしてたら、人生変わっただろうなと思う。

ここの喫茶スペース、さきこもとても気に入ったようで、営業時間の19時を過ぎても、
「ゆっくりしていってくださいねー」との店員さんの言葉に甘えて、
20時頃まで裸電球の黄色い薄明かりの中、登山雑誌をめくりながら、談笑したのでした。
雲の上で飲む暖かいココア。なんかとても大事な時間を過ごしている気がしていた。

※山荘の喫茶スペースで一息。こりゃ至福の瞬間ってヤツ?

山荘の入り口近くに設置されたテレビの前には、宿泊客が大勢集まっていた。
気になるのは、気象情報、そして今朝発生した大雪渓の崩落の状況。
大雪渓の崩落は、未だ救助されてない人もいるそうで、かなり余談を許さない状況。
唐松山荘には、この日の朝、白馬岳から来たという人もいて、通ってきたルートだけにかなり神妙な様子でした。
天気の方は芳しくなく、翌日も雨の様相。
あー、こりゃ雨中行軍必至かなー。
このまま天気が回復するまで、この居心地のいい山小屋で過ごしたい欲求に駆られてしまいました。

7.晴れ男・晴れ女
20時過ぎに就寝するも、翌朝6時の朝食まで、ひたすら寝るというのは苦痛なもので、
(特に仕事で遅くなり、帰宅後の5時間後には、
またネクタイ締めて出勤なんていう生活してるしゅんすけにとっては)
23時頃起き出して、外の様子を見てみる。
夜の間に雲が切れて、満天の星空、ペルセウス座流星群が飛び交うのを期待してたんだけど、
やはり未だ雨粒がガラスを叩く音がしていた。
複数のイビキが合唱される12、3人の部屋は、かなり暑苦しくて、外の空気がひんやりと新鮮でした。
部屋に戻り、また布団を被って目を閉じる。
明日はどんな天気なんだか・・・。

ザックのファスナーを閉めたり、がさがさとビニール袋をまさぐる音で目を覚ます。
部屋の人たちが、続々と準備を始めた。
そろそろ起き出さないと。
窓の外は、濃い霧に何も見えない状況でした。
階下へ降り、天気予報を見る。降水確率80%。ガク・・・。
朝食を済ませ、準備を整える頃には、濃霧に覆われているものの、幸い雨は止んでいるようで、
とりあえずレインウェアを着込んで出発することにしました。
雨に濡れた登山道をいく。
霧が髪を濡らしていくが、どうもまとまった雨にはなってないようで、いいタイミングで出発した感じ。
昨日通った道には、幾筋にも雨水が流れていました。

出発から1時間程度で、丸山ケルン、扇ノ雪渓をパス。
下山はかなり楽でした。
幸い雨どころか、太陽の姿も確認できるほど、雲が薄くなってきており、
ツアー客の中に強力な晴れ男・晴れ女がいる様子。
(しゅんすけとさきこは、かなりの雨男・雨女だけど、その呪いを吹き飛ばすほど強力な晴れエネルギーだね)
扇ノ雪渓での休憩でついにレインウェアを脱ぐ。
だんだん霧も晴れてきました。
そして、さらに1時間後には、八方池。
八方池からのハイキングコースを降りて、出発から2時間半程度で八方池山荘のリフト乗り場まで降りてきました。
気持ち的に余裕が出てきたからなのか、登りの時には全然興味がなかった高山植物に目が行くようになり、
ツアー客の列から離れて、写真を撮ったりしてました。

※幸い天気は悪化しなかった。気持ちよく下山。

しゅんすけは特に苦もなく下山できたんだけど、さきこは膝に痛みを覚えるようになっていた。
やはり登りよりも降りる方が、膝への負担が増すんだろう。
特に後半はキツそうでした。

リフトとロープウェイを乗り継いで、下山。
富士山を降りてきたほどの疲労はなかった。特に下山は順調に行き過ぎて、拍子抜けした感じでした。
待っていた観光局のワゴンに乗って、風呂と食事に向かう。
ワゴンが走り出した頃、車窓を雨滴が打つようになった。
まるで、下山を待っていたかのように、雨が降り出したのでした。

※八方池でガイドさん2名と。
(後で知ったが、このガイドさん、若いのに地元ではガイド業だけでなく、いろいろと事業を展開しているそうで)

8.誓い
う〜ん、今年の登山は、あまり好天に恵まれない。
富士登山での無念は、唐松岳でも文字通り、晴らすことができませんでした。
でも、アルプス登山では、富士登山にはない魅力がたくさんあることが分かって良かったな。
霧に隠れたとは言え、雄大な山並みを見ることができたし、高山植物の可憐な美しさに魅了されちゃったし、
山小屋の快適さ、暖かいココアなど、しゅんすけとさきこは、完全にトリコになっちゃいました。
来年もぜひ来たいと思った。
富士登山は、登山の楽しみがかなり限定的に凝縮していると感じてたけど、
まさにその通り、いや、富士山が悪いんじゃなくて、こっちの方が奥が深すぎるというべきか。

ただ、さきこは別にしても、しゅんすけには体力的にかなり厳しかった。
あの息苦しさを思うに、やはり軽い高山病だったのかも。発汗量も多くて、特にザックの背に当たる部分は
ビショビショだった。ザックを下ろすとこの部分が冷たくてね。来年は熱が背中に籠らないザックを新調したいものだ。
それにしても、初心者向けの唐松岳で、ここまで苦しんでたしゅんすけが
雑誌なぞ斜め読みしながら「次は槍ヶ岳かなー」などとほざいていたのには、恥じ入るばかり。
とにかく体力作りと体調管理だな。
(低酸素下での運動能力向上は、ホント来年に向けての課題だな)
しゅんすけのアルプス登山は、まだ最初の一歩に過ぎないのである。

9.エピローグ
12名が一緒に登山するツアー登山では、最初こそおばちゃんパワーに圧され気味で辟易したけど、
同じ目標を持つ者同士、話してみればいい人ばかりでした。
今回は白馬岳登頂が果たせなかったけど、いつか全員が白馬の山頂を極めることができればいいな。
特に、あの大学院生ね。登山が嫌で同行しなかった彼女も連れて、いつか登頂を果たして欲しいものである。

植相はさすが高山、独特でしたね。
最初は、高山植物にはほとんど興味がなかったけど、下山の頃にちょっとカメラを向けると
なかなかいい表情をしてくれて、ちょっと興味が出てきました。
特に黄色い小さい花は、美しく可憐でいい感じ。
前の会社の上司は、登山が趣味で、短い夏休みをアルプス縦走で過ごすというツワモノだったけど、
(家族サービスとかどうしてたんだか)
彼がかなり高山植物に詳しくて、高山を極める力強さと小さな花を愛でる繊細さが同居するギャップに
「いや、この上司、一緒に仕事してても嫌な感じだけど、プライベートもさらに変だわ」と
一歩引いて見てたものだけど、いや高山の花はなかなか魅力的ですよ。
今さらながら、この上司のこと、見直したわ。
(それにしても、彼が話すナントカ岳とか縦走の話しを、今さらながら詳しく聞きたくなっちゃった。
いつかどこかの山小屋でばったり会えたらいいな)
  

  

唐松岳の山の地質もちょっと興味を引いた。
八方池からしばらくは粘土質っぽい白い石が繋がっているんだけど、
(粘土質だからこそ、2,000メートルもの高所に池が存在し得るわけで)
その後岩の色が黒っぽくなり、茶色の土が露出してたかと思うと、山頂付近では黒光りする黄土(?)色の
様相を呈する。山脈一帯は大昔には海の底だったそうで、堆積していった地層がそうさせるのだろうか。
それにしても、白い山道は、独特な美しさを醸していたな。
他の山にもそういう独特な色合いがあるんだろうな。
そういう意味でも、他の山への興味が沸いてきた。

山荘で和んでいる時に、窓の外を横切る影があった。
よく見てみると、ツバメのようでかなり小さい鳥。イワツバメと言うそうで、あれは海岸の岩場にいるんだと
思ってたけど、違ったかな?(沖縄の万座毛で見たのはイワツバメではなかったか)
動物と言えば、地図にも載っていないような小さなケルンの近くに5センチくらいの糞が転がってた。
丁度犬の糞くらいの大きさ。おいおい、犬を散歩させる時は、ちゃんとビニール袋持って行けよなーって、
こんな高山で犬の散歩もないわけで、恐らくカモシカかなんかだったんだろうな。
う〜ん、さすがに野生のカモシカは見たことないな。
聞くと、クマも生息しているんだそうで、そういう動物に接近遭遇できる機会も今後あるのかと思うと、
楽しみになってきちゃうね。

さて、白馬であずさ号に乗り、新宿を経て、横浜へ戻ってきたしゅんすけとさきこ。
ザックの中の洗濯物やゴミを一通り片付けて、一服。
ふと傍らのさきこを見ると、登山雑誌を読んでいる。
予期していなかった唐松岳の記事でも探しているのかと思ったら、違った。
もう別の山に目が行っていた。
それは、来年の計画なのか?それとも秋の紅葉シーズンを考えているのか?
あおき家の登山は、まだしばらく続くのでした。

※また来るぜ!白馬岳!

ちゃららん。

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